大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)6259号 判決 1969年5月28日

A事件原告・B事件被告

有限会社北村運輸

B事件原告

株式会社テコ

A事件被告・B事件被告

井口運輸こと井口敏

主文

被告(A事件)井口敏は原告(A事件)有限会社北村運輸に対し金五六六、三六八円およびこれに対する昭和四二年六月二六日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

被告(B事件)有限会社北村運輸、同(B事件)井口敏は各自原告(B事件)株式会社テコに対し金七二三、八七五円およびこれに対する昭和四二年一一月八日から支払い済みにいたるまで被告有限会社北村運輸は年六分、被告井口敏は年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中原告有限会社北村運輸と被告井口敏の間に生じたものはこれを五分し、その一を同原告の、その余を同被告の各負担とし、原告株式会社テコと被告有限会社北村運輸、同井口敏との間に生じたものはすべて同被告らの負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

(A事件)

一、被告井口敏(以下井口という)は原告有限会社北村運輸(以下北村運輸という)に対し七二六、五九五円およびこれに対する昭和四二年六月二六日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告井口の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

(B事件)

一、被告北村運輸、同井口は各自原告株式会社テコ(以下テコという)に対し七四六、八七五円およびこれに対する昭和四二年一一月八日から支払済みにいたるまで被告北村運輸は年六分、被告井口は年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は右被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する各被告の答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

(A事件)

一、(事故の発生)

原告北村運輸は、次の交通事故によつて損害を蒙つた。

(一) 発生時 昭和四二年四月一日午前四時一五分頃

(二) 発生地 静岡県富士市蓼原一一九三番地先高島三叉路

(三) 加害車 日野四〇年貨物自動車(三河一さ四五三号。以下甲車という)

運転者 訴外松本三郎(以下松本という。)

(四) 被害車 エルフ貨物自動車(練馬四六一四―六三号。以下乙車という)

運転者 訴外長尾堅(以下長尾という)

(五) 態様 乙車が右地点において故障のため停車していたところ、沼津方面から静岡方面に向つて疾走してきた甲車に激突され乙車は大破し、積載せる貨物の大半を損壊した。

(六) 被害者訴外長尾の傷害の部位程度は、次のとおりである。

左肩並びに背部打撲症。

二、(責任原因)

被告井口は、次の理由により、本件事故により生じた原告北村運輸の損害を賠償する責任がある。

(一) 被告井口は、加害車を所有し業務用に使用し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二) 被告井口は、訴外松本を使用し、同人が同被告の業務を執行中、後記のような過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任。

なお、訴外松本には事故発生につき、次のような過失があつたものである。

前方不注意による過失。

三、損害

原告北村運輸は右事故により次の損害を蒙つた。

(一) 同原告所有の乙車修理代 三八一、七〇〇円

(二) 荷物並びに車輛引取のための人件費 一二五、〇〇〇円

(三) 被使用人長尾の治療費負担として 四、八九五円

(四) 右長尾の傷害治療のため一〇日間休業したこの間給与として一日一、五〇〇円支給したことによる損失として 一五、〇〇〇円

(五) 乙車修理期間中使用することができなかつた損失として一日四、〇〇〇円三〇日分 一二〇、〇〇〇円

(六) 右事故に伴って費消した雑費(電話、宿泊、謝礼その他) 三〇、〇〇〇円

(七) 弁護士費用

以上により、原告北村運輸は六七六、五九五円を被告井口に対し請求しうるものであるところ、被告はその任意の弁済に応じないので、同原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、同原告は五〇、〇〇〇円を、手数料として支払つた。

四、(結論)

よつて、被告井口に対し、原告北村運輸は七二六、五九五円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四二年六月二六日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(B事件)

一、被告北村運輸は物品の運送をなすを業とする会社である。

二、原告テコは昭和四二年三月三〇日被告北村運輸に対し「ヴアンひげそりデイスプレー(以下本件展示器という)」四五〇個(単価一個につき二、五〇〇円)を、東京都荒川区町屋五丁目八番地有限会社新興化成の工場より、大阪市東区備後町四丁目四三番地小泉産業株式会社まで運送を依頼した。

三、被告北村運輸は前項の契約に基づき同年三月三一日右物品を乙車に積載して大阪に向けて東京を出発したところ、翌四月一日未明静岡県富士市近辺の国道一号線路上において、被告井口所有の甲車と双方の運転手の過失により、衝突事故を生じ、そのため原告テコより依頼を受けた運送品について運送の目的を達することができなくなつたのみならず、右物品について毀損等の事態を生じ、原告はこれがため次のとおり計七四六、八七五円に達する損害を被つた。

四(一)  原告は本件展示器をまとめて製造し卸売業者などに販売する業者であつて、その製造の実際は、、原告の指導の下に訴外有限会社新興化成(以下新興化成という)において組立てさせ(電気材料については右訴外会社が負担する)、鏡プラステイック材料等は他の業者(例えば鏡については訴外合資会社浅賀硝子工業所、プラステイックについては同酒井セルロイド株式会社など)に注文して原告が代金を支払つて右新興化成に現物支給するやり方をしていた。

(二)  本件事故の直後、原告は運送を依頼した本件展示器を全部新興化成の工場に持ちこみ毀損程度を調査するとともに同時に製品の納入を急がれていたため修理を要するものは至急修理するよう頼みかつ納入先迄の運送も依頼した。

(三)  その結果原告テコが支払いをしなければならなくなつた額並びに相手先は次の通りである。

金二六七、六九五円 新興化成

金三七五、七九〇円 酒井セルロイド株式会社

金四五、六〇〇円 合資会社浅賀硝子工業所

金二二、〇九〇円 三伸包製紙器

金五、七〇〇円 吉岡プロセス印刷工芸社

合計 金七一六、八七五円

(四)  なお、本件事故発生と同時に原告テコはその時の納入先である訴外小泉産業株式会社に対して電話で連絡をとつたり、その後も合計して二〇回位電話したのみならず、更に社員中西耕治を大阪に派遣して事後の打合せをなさしめなくてはならなかつた。又原告代表者も事故現場へいつたり更に事故両当事者が互いに相手方に責任をなすりつけて原告に対して誠意ある措置をとろうとしなかつたため、その接衝に大いに手間と費用をとられたのである。右を計算すると大阪への社員出張旅費一泊二日で一五、〇〇〇円、大阪への電話代のみで六、〇〇〇円、その他で九、〇〇〇円、合計三〇、〇〇〇円の支出をさせられた。

五、よつて原告テコは被告北村運輸に対し右損害金の合計金七四六、八七五円と、これに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四二年一一月八日から支払完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

六、又本件事故は被告北村運輸、同井口両名の運転手がそれぞれ右被告両名のための業務執行中、双方の過失によつて惹起せしめたものでありそれによつて本件損害を生ぜしめたものであるから、被告両者は各自が原告テコに対し損害賠償金として金七四六、八七五円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四二年一一月八日から支払完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告らの事実主張

(A事件について被告井口の事実主張)

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(四)は認める。(五)のうち甲車と乙車の事故があつたことは認めその余は否認する。(六)は否認。

第二項(一)、(二)、のうち訴外松本の過失の点否認し、その余は認める。

第三項は否認。

第四項は争う。

二、(事故態様に関する主張)

本件国道は国道一号線で交通頻繁な道路で、高島三叉路は、駐車禁止の登り坂となり、左にカーブしているところである。訴外松本は甲車を運転しすぐ前を走つていた幌つき車の後に追随していたが、多くの車に追随しているので殊更に車間距離をあけなかつた。乙車は右のとおりの交差点に後尾燈を点滅させることなく停車していたものである。甲車は先行車が急に右に把手をきつて乙車との衝突を避けたが、松本は右に急に把手をきつたが乙車の右後部に衝突させたものである。

右のとおりであつて、訴外松本には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに訴外長尾の駐車停車してはならない場所に駐停車し、後方に駐車を知らせる方法をとらなかつた過失によるものである。従つて被告井口には責任はない。

三、抗弁

(一) 過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については訴外長尾には八割程度の過失があると思料するのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(B事件について被告北村運輸の事実主張)

一、(請求原因に対する認否)

第一項は認める。

第二項中「昭和四二年三月三〇日」とある部分「ヴアンひげそりデイスプレー四五〇個」とある部分を除いて、その余の原告主張事実は認め、右除外部分は否認する。運送契約成立の日は同月三一日で、運送品の数量は四〇〇個である。

第三項中双方の運転手の過失により衝突事故を生じたとある部分、損害賠償額計七四六、八七五円の損害を蒙つたとする部分を除いてその余は認める。右除外部分は否認する。

第四項はすべて不知。

第五項は争う。

第六項中「本件事故は被告両名の運転手がそれぞれ被告両名のための事業執行中」とある部分は認めるが、その余は否認する。

二、(事故の態様に関する主張)

本件事故は松本の前方不注意によるもので、被告北村運輸にとつては全く不可抗力によるもので責任はない。即ち乙車は本件事故地点においてアクセルワイヤーが切れエンジンの始動が全くできなくなったのでより安全な場所に車を移動することができず、路肩一杯となるまで寄つて停止したものである。長尾は後尾燈を点燈すると共に方向指示器をも点滅せしめ、車が停止すると同時に採り得る最大の危険防止策を構じ、長尾は運転台に残り、他の従業員一名は安全棚を設置すべく附近に材料を探しに出た。このとき甲車が追突してきたものである。

(B事件について被告井口の事実主張)

一、(請求原因事実の認否)

第一項は認める。

第二項は不知

第三項については甲車と乙車の間の事故発生については認めるがその余は否認。

第四、五項は不知。

第六項中、本件事故が被告両名の運転手がそれぞれ被告両名のため事業執行中発生したものであることは認め、その余は否認。

二、本件事故の態様及び松本の無過失についてはA事件についての被告井口の主張のとおりであるので引用する。

第五、証拠関係〔略〕

理由

一、A事件請求原因第一項(一)ないし(四)記載の事故が発生したことはA、B事件全当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。本件道路は東京方面から大阪方面に向う国道一号線で、幅員一〇米の舗装された道路であり、事故現場は三差路で上り勾配のところで、交通整理は行われていないが、追越禁止、駐車禁止の標識があり、夜間はやゝ明るく、見透しは良い。

長尾は訴外清水宣一と交互に乙車を運転し東京方面より本件交差点附近にいたつたところ、乙車のアクセルワイヤーが切れたためエンジンが止まり、惰力により七、八米進み左の路肩に寄せて停車し、後尾燈、方向指示燈をつけ、両名とも一旦乙車から外に出て、清水は安全柵の材料をさがしに出かけ、長尾が乙車に戻り助手席にいたところ、乙車か停車してから約五分後に甲車に衝突され、道路下に転落した。なお、乙車が停車中の五分位の間に乙車の脇を一〇台以上の自動車が通過して行つた。

松本は甲車を運転し時速約五〇粁で前車である大型トラックに約五米の車間距離をおいて進行中、右大型トラックが右にハンドルを切つて乙車を避けて通つたところ、自車の約四米前方に停車中の乙車を発見しハンドルを右に切つたが及ばず乙車後部に甲車を衝突させた。

右認定事実によれば松本には前車との車間距離を置かなかつた過失があることが明らかであるが、一方長尾にも、駐車禁止とされ、夜間も交通量の多い国道上左側に乙車を停車させた場合、安全対策としては、後尾燈、方向指示燈をつけるのみならず、安全柵を設置するか、安全柵ができるまでの間乙車の外に出て懐中電燈等により後続車を誘導する等し、事故の発生を未然に防止すべき義務があつたのに、これを怠り、助手席にいた過失があると認められる。そして、右松本と長尾の本件事故発生についての過失の割合はおゝむね松本九対長尾一と認める。

二、(一)被告井口が甲車を自己のため運行の用に供していたものであり、松本が同被告の被用人で事業の執行中本件事故を起したものであることは、原告北村運輸と被告井口の間において争いがない。従つて被告井口は原告北村運輸の次の損害を賠償すべき義務がある。

(二)〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。

1  原告北村運輸はその所有する乙車を破損されその修理費として三八一、七〇〇円が必要であつたこと。

2  原告北村運輸の従業員が本件事故後数回にわたり同原告の自動車により、本件事故現場に乙車の荷物引取のため、あるいは破損した乙車を引取りのために赴いたこと。

3  長尾が本件事故により左背、背部打撲傷を受け、富士病院、富士中央病院において治療をしたが、その治療費合計四、九八五円を原告北村運輸において立替支払つたこと。

4  長尾が右受傷により一〇日間原告北村運輸を休業したが、この間一日一、五〇〇円の割合により一五、〇〇〇円を同原告が長尾に支払つたこと。

5  原告北村運輸は乙車を現場から引揚げ、修理を完了するまで一ケ月間要し、この間一日四、〇〇〇円の割合による乙車を使用できなかつたことによる損害として一二〇、〇〇〇円の損失を蒙つたこと。

6  原告北村運輸は本件事故により事故地である富士市及び被告井口の住居地の豊橋に市外電話をかけ(甲七ないし九号証中通話局コード五四五、五三二の分)、二、〇五八円を要したこと。

右1、3ないし6の合計五二三、七四三円及び2については荷物引取の合計二回につき、一回につきその費用として二五、〇〇〇円、合計五〇、〇〇〇円の範囲において本件事故と相当因果関係があるものと認める。以上を超える荷物引取費及び電話料、宿泊費等の雑費については本件事故と相当因果関係を認めることができない。従つて原告北村運輸の損害額は、合計五七三、七四三円となるところ、一に認定した長尾の過失を斟酌すれば、五一六、三六八円となる。

(三)原告北村運輸は同原告訴訟代理人に本件訴訟提起を委任したことは記録上明らかであるが、右に要した弁護士費用五〇、〇〇〇円を本件事故による損害として被告井口に賠償させるのが相当である。

三、(一)B事件請求原因第一項および同第二項のうち運送契約の成立日、運送品の個数を除き同事件原告テコと被告北村運輸の間において争いがなく〔証拠略〕によれば、原告テコは昭和四二年三月三〇日本件展示品四五〇個を被告北村運輸に運送を依頼し、被告北村運輸は乙車により運送中であつたことが認められる。しかして、松本が被告井口の被用人で事業執行中本件事故を起したこと当事者間に争いがなく、前認定のとおり本件事故につき長尾及び松本に過失があつたのであるから、被告北村は右運送契約不履行に基き、同井口は民法第七一五条第一項により原告テコの次の損害を賠償する義務がある。(両被告間の内部関係における負担部分は民法第七一九条に準じ長尾と松本の過失の割合によるものと解する)。

(二)〔証拠略〕によれば、原告テコは(1)本件事故により破損された本件展示品を訴外有限会社新興化成に新に加工又は修理させたが、新に加工させたものは一〇〇個(単価一〇〇〇円)修理させたものは二一六個(単価三七〇円)で、この他電気部品、ダンボール梱包代、事故検品代、運賃等で二六七、六九五円を支払つたこと(2)右修理のため原告テコが訴外酒井セルロイド株式会社からプラステックを購入し、三七五、七九〇円支払つたこと。(3)右修理のため原告テコが合資会社浅賀硝子工業所から鏡を購入し四五、六〇〇円支払つたこと。(4)原告テコは右乙車に積載されてあつた本件展示器四五〇個のダンボールをすべて取りかえる必要があつたため、訴外三伸包制紙器からこれを購入し四五、六〇〇円を支払つたこと(5)原告テコは本件事故で破損した分のうち修理した鏡に文字を印刷し、訴外吉岡プロセス印刷工芸社に五、七〇〇円を支払つたことが認められる。右1ないし6の合計七一六、八七五円は本件事故と相当因果関係が認められる。さらに原告テコは社員出張旅費電話代その他で合計三〇、〇〇〇円の支出があつた旨主張し、原告テコ代表者柴田実本人これに添う供述をするけれども、このうち本件事故と相当因果関係のあるものは宿泊費五、〇〇〇円、電話代二、〇〇〇円合計七、〇〇〇円程度と認めるを相当とする。従つて、原告テコの損害額は七二三、八七五円となる。

四、よつて、(一)被告井口は原告北村運輸に対し五六六、三六八円およびこれに対する同被告に対するA事件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年六月二六日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、(二)被告北村運輸、同井口は原告テコに対し各自七二三、八七五円およびこれに対するB事件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年一一月八日から支払ずみにいたるまで被告北村運輸は商法所定年六分の割合による、被告井口は民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるので、原告らの本訴請求は右の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例